1万個売り上げたご当地レトルトカレー「愛知・幸田の消防カレー」の正体

1万個売り上げたご当地レトルトカレー「愛知・幸田の消防カレー」の正体

1万食を完売した 愛知県幸田町のご当地レトルトカレー「愛知・幸田の消防カレー」使用したスパイス、ダシは地元で採れた野菜や肉、魚介などの特産品を使っている。

こういったご当地カレーで町おこしをする自治体は、全国で100以上あると言われている。さらに、ご当地レトルトカレーとなると、全国で3000種類も作られているという。

そんな中でも追加の注文が入る「愛知・幸田の消防カレー」の人気を記事が語ってました。

詳しくはこちら
https://news.livedoor.com/article/detail/21388765/

レシピは消防署員の賄いがベース
幸田町の人口は42625人(12月1日現在)。特産品である筆柿やハウス栽培のイチゴなど農業のほか、多くの工業団地があり、自動車関連産業を中心に製造業も盛んな町である。「消防カレーのプロジェクトは、幸田町役場産業振興課と幸田町消防本部によって、2019年5月から始まりました。本業を持ちながら訓練に励む消防団員を応援したいという成瀬敦町長の思いがきっかけでした」と、幸田町役場産業振興課の春日井幸弘さんは振り返る。

海上自衛隊では、長期にわたる海上勤務で曜日の感覚が失われることから、毎週金曜日にカレーを食べる習慣がある。それと同様に、幸田町消防本部に勤務する署員もカレーと深いつながりがある。幸田町消防本部庶務課の新實直哉さんはこう話す。「署員たちは火災による消火活動や救急搬送で24時間いつでも駆けつけねばなりません。交代制の勤務の中で、食事も彼ら自身が作っています。食事中に出動することもあり、署に戻ってから再び食事をするわけですが、カレーであれば冷めても食べられます。食器の後片付けも楽ですし、署員の間でカレーは人気なんです」

消防カレーを開発するにあたって、まずは署員たちからレシピを集めた。赤と橙、2色のルーとご飯のそれぞれの色で消防とレスキュー、救急を表現したものや、ナスの素揚げの両端に2本の串を刺してハシゴや揚げたきしめんで作った火消し組の目印である纏(まとい)をトッピングしたカレーなど楽しいレシピが寄せられた。それらを審査したのが、名古屋と東京の2拠点で料理研究家として活動する長田絢さん。さらに、彼女は審査したカレーをベースにレシピを考案。幸田町の特産品の中から、ナスとイチジク、筆先の形をした甘みの強い筆柿、町内の養豚場で飼育されているブランド豚、夢やまびこ豚を選び、厳選したスパイスと合わせた。

冷めてもおいしく食べられるのが絶対条件
「署員の方が火事や救急の現場から帰ってきてから食べかけの料理を食べることもあるとお聞きしました。冷めてもおいしく食べられるカレーが私の中で絶対条件でした。また、日々の厳しい訓練のエネルギー補給にもなればと思い、カロリーよりも味を優先させました」と、長田さん。
これが完成した消防カレー。小麦粉をバターで炒めたルーを使うと冷めると脂が固まってしまうため、数年前からブームとなっているスパイスカレーを採用した。幸田町の特産品であるナスの素揚げと夢やまびこ豚を使用したとんかつもトッピングされている。
実際に食べてみたが、いわゆる家庭のカレーライスとはまったく違う。とはいえ、本格的なインドやスリランカのカレーでもない。ベースとなるダシとスパイスが複雑に絡み合いながらも見事に調和がとれている。また、辛さの中にほのかな甘みもある。おそらく、これがイチジクと筆柿だろう。実に素朴な味わいに仕上がっている。
長田さん は「スパイスは、カルダモンやクローブ、シナモン、黒コショウ、クミンシード、マスタードシードなどを使い、複雑な味を表現しました。その反面、ダシは、煮干しと昆布、鰹節、切り干し大根を使った和風ダシですから、どこか親しみのある味に仕上がっています」と語ってます。
消防カレーは、火災現場でも怯まず、果敢に消火活動を行う消防署員の原動力であるという意味から“火事場のチカラメシ。”というキャッチコピーが付けられた。また、消防車の前で楽しそうにカレーを食べている消防署員をメインビジュアルにしたポスターも制作した。こうして2020年4月、幸田町役場内の食堂『コウショク』(現在改装中のため休業)と道の駅『筆柿の里 幸田』で消防カレーの販売がスタートした。
春日井さんは「スパイスカレーという珍しさもあって、評判は上々でした。ポスターを見て注文される方も多かったですね。役場や消防署にも多くの問い合わせがありました。反響は予想以上に大きく、レトルトカレー製造のプロジェクトを立ち上げました」と語ってます。ところが、レトルト化するにあたり、「温めずに冷たいままおいしく食べられる」というコンセプトが足枷となった。豚肉の脂が溶け出す融点が40~46℃と高いので、温めずに開封すると油脂が固まってしまうのだ。使用する豚肉の部位を脂の少ない肩ロースに変えるなど、試作と試食を繰り返して1年がかりでようやく完成させた。

発売からわずか2カ月半で5000個が完売
しかし、冒頭で書いたとおり、5000個で1ロット。販路は今のところ道の駅のみ。売れる保証はどこにもない。何しろ、製造にかかる費用の原資は町民が納めた税金なのだ。「正直、5000個も売れるわけがないと思っていました。ただ、レトルトゆえに賞味期限が2年と長いので、売れ残ったら『災害時の非常食として作った』という言い訳も考えていました」(春日井さん)しかし、実際に蓋を開けてみると、6月半ばには完売。7月末に5000個を追加発売するも、10月中旬に完売。10月末にさらに6500個を発注したが、これも年度内に完売する見込みだという。大ヒットとなったのは、2018年から幸田町が参画したフィルム・コミッションも要因の1つ。ドラマや映画、CMなど映像作品のロケ地の誘致に積極的に取り組み、竹中直人と山田孝之、齊藤工が監督を務めた映画『ゾッキ』や東海テレビ『最高のオバハン 中島ハルコ』のロケ地として選ばれたのだ。撮影が始まると、役者やスタッフが休憩時間や撮影の合間に食べる、いわゆる“ロケ弁”に消防カレーを振る舞った。役者たちは写真を撮り、インスタなどのSNSにアップした。それを見たファンが道の駅を訪れて購入したのだ。「いちばん反響が大きかったのは、大地真央さんのインスタでした。今年3月、東京出張の折に東海テレビの東京支社へ消防カレーを持参してお礼に伺ったんです。偶然にも、その場に『最高のオバハン 中島ハルコ』で主役を務めた大地真央さんがいて、直接お渡しすることができたんです」(春日井さん)現在、道の駅以外に消防カレーを購入できるのは、幸田町内の飲食店の一部とギフトショップ。飲食店は幸田町商工会の会員企業で、当初は売れるわけがないと思い込んでいた春日井さんが頼み込んで置かせてもらったとか。しかし、ある店では現在、1カ月に60~90個も売れているというからスゴイ。また、ギフトショップでは消防カレーの通販も行っており、売れ行きも上々だという。

町内の飲食店もアレンジメニューを展開
今年10月、消防カレーを扱う町内の飲食店が消防カレーをアレンジしたメニューの販売を開始した。消防カレーで煮込んだ夢やまびこ豚の角煮をサンドしたバーガーやカレーピザ風のお好み焼きなど多種多様。その中の1つ、『こうたのらーめん屋さん』を訪ねた。ここで提供されているのは、店で人気の麻婆飯と天津飯、唐揚げ、揚げ餃子が同時に食べられる「ファイヤー!SOSライス」(1320円)。「麻婆ソースに消防カレーを加えて、長崎のトルコライスをイメージして遊び半分で作りました。唐揚げもゲンコツほどの大きさくらいあるし、ご飯だけでも350グラムもあるので、絶対に売れないと思ったんです。ところが予想に反して、多いときで1日20食出ることもあります。こんなことなら、もう少し値段を上げておけばよかったと後悔しています(笑)」と、店主の石部龍浩さん。消防カレーを求めて、多くの人々が幸田町に足を運んでいるだけではなく、カレーメーカーをはじめ、唐揚げや宅配ピザのチェーン店などからコラボ商品開発のオファーが数多く寄せられているという。が、消防カレーは利益ではなく、町と消防団のPRを目的としているためすべて断っている。利益を追求するのであれば、こんなにオイシイ話はない。一方、まだまだクリアせねばならない課題もある。幸田町消防本部の新實さんは「ありがたいことに、全国の消防署から消防カレーの問い合わせをいただいています。が、消防団に入団を希望される方は年々減少しているのが現実です。今後は、消防団一日体験イベントなどで参加者に消防カレーを記念品として配布するなど、消防カレーを消防団の活動を盛り上げるツールとして活用していきたい」と、語った。消防カレーによる町おこしが成功を収めたのは、行政と町内の事業者がしっかりとタッグを組み、情熱を持って取り組んだからにほかならない。消防団員の不足も解決する道があると信じたい。

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